俳句―それは五・七・五のリズムで自分の思いや自然の情景(じょうけい)などを表す、日本の伝統的な詩の形式であり、世界でもっとも短い詩と言われています。

俳句を作るうえで欠かせないのが「季語」です。

季語は、その言葉を聞くだけで、まわりの景色や季節がパッと思い浮かぶ合図(あいず)の言葉です。

季語といえば、桜、海、紅葉、雪などを思い浮かべますが、中には意外な季語もたくさんあります。

そこで、このブログではいろいろな面白い季語を紹介します。

寿司


最初に紹介するのは「寿司」です。

寿司は春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)のどの季節の季語でしょうか?

私は「寿司は一年を通して食べるけど、選ぶなら魚がおいしい季節の冬かな」と思っていましたが、調べてみると、なんと寿司は夏の季語でした。これには寿司が生まれた時代が関係しています。

寿司の起源は、酢飯の上に魚がのった「にぎり寿司」ではなく、「なれずし」という食べ物です。

なれずしは、8世紀ごろアジアから日本に伝わったと言われており、冷蔵庫がない時代に、魚を保存するために、米と塩と一緒に長期間熟成させた発酵食品です。

このなれずしが、夏のはじめに漬け込まれ、熟成が終わる夏の終わりに食べられたことから、寿司は夏の季語になりました。

ちなみに、なれずしの「すし」は漢字で「鮓」と書きます。「すし」の漢字には、他にも「鮨」と「寿司」があります。「鮨」は「鮓」と同じく、アジアから日本に伝わった魚の塩辛のようなものを指していました。

今、「すし」の漢字といえば「寿司」がもっとも一般的ですが、これは江戸時代に生まれた握り寿司のことを表す漢字です。「鮓」も「鮨」も「寿司」ももともとは別の食べ物でしたが、現在はすべて区別なく使われています。

ここで、俳句の代表的な俳人である松尾 芭蕉(まつおばしょう)や正岡子規(まさおかしき)が寿司についてうたった俳句を2つ紹介しましょう。

鮓(すし)を圧(お)す 石に暮(く)れ行(ゆ)く 浮世(うきよ)かな (松尾芭蕉)

意味と解説:
この俳句はお寿司を作っている場面を切り取ったもので、「お寿司を作っていたら、いつの間にか日が暮れている。当たり前の生活こそが、私たちの人生なんだなあ。」、つまりいろんなことをしているうちに、いつの間にか時間が過ぎていたという気持ちを深く感じさせます。

淋(さび)しさに 飯(めし)を喰(く)ふなり 秋の鮓(正岡子規)

意味と解説:
この俳句は孤独感を強く表しています。「寂しくてたまらないから、黙々とご飯を食べているんだ。ああ、この秋の寿司が身に染みるなあ。」という一人で寿司を食べて寂しいけど、頑張って生きていくぞというエネルギーを感じさせます。「鮓」は夏の季語なのですが、「秋の鮓」とすることで秋の季語に変わります。

猫の恋

次に紹介するのは『猫の恋』という季語です。

一見ロマンチックな言葉だと思う人もいるかもしれません。

しかし、この季語の意味は「恋に夢中になりすぎて、周りが見えなくなっている猫のこと。春の昼夜を問わず、毛を逆立(さかだ)てたり変な声をあげたりして、恋のせいで狂ったように大騒(おおさわ)ぎしている様子」を表している言葉です。

一匹のメス猫を求めて二匹のオス猫が喧嘩をする。なんだか人間にも当てはまりそうな気がするのは私だけでしょうか。これは春の季語なのですが、爽やかな雰囲気ではなくまさに殺伐とした雰囲気が感じられるのも面白いですね。

「猫の恋」という季語を使った俳句を、江戸時代中期に活躍した女性俳人の加賀の千代女(かがのちよじょ)や、日本でもっとも有名な小説『吾輩は猫である』を書いた夏目漱石などが詠んでいます。

声たてぬ時が別れぞ猫の恋 (千代女)

意味と解説:
「あんなに激しく鳴いていた猫たちが急に静かになったのは、彼らの恋が終わったということだ。」千代女は猫たちの激しい求愛行動(きゅうあいこうどう)をその後の静けさに着目してこの俳句を書きました。

恋猫の眼(め)ばかりに痩(や)せにけり (夏目漱石)

意味と解説:
「発情期(はつじょうき)を迎えた猫が恋にやつれて体中のあちこちがガリガリに痩(や)せ細(ほそ)っている。」この俳句に出ている猫は恋に狂って、骨と皮ばかりにやつれている様子を夏目漱石は見事俳句で表しました。季語は「恋猫」でこの季語は「猫の恋」の子季語(こきご)です。子季語とは「親季語(おやきご)」という基本的な季語から派生(はせい)している季語のことです。


童貞聖マリア無原罪の御孕りの祝日

最後に五・七・五をまったく無視した長い季語を紹介します。それが「童貞(どうてい)聖(せい)マリア無原罪(むげんざい)の御孕り(おんやどり)の祝日(いわいび)」という冬の季語です。一番長い季語だそうです。

意味は「キリスト教の聖母マリアの母アンナがマリアを身ごもったとされる記念日」です。その記念日が12月8日であるため冬の季語なのですが、明治時代(めいじじだい)に、海外の文化やキリスト教の行事が日本の生活文化に取り入れられたとき、『歳時記(さいじき)』という季語の辞書に登録(とうろく)されました。

「プレバト!」というテレビ番組に出演している俳人(はいじん)夏井いつき氏が作品として残しています。

童貞聖マリア無原罪の御孕りの祝日の鳩 (夏井いつき)

童貞聖マリア無原罪の御孕りの祝日とはなれり (同氏)

上の俳句には、ハトが「無原罪の御宿りの祝日(12月8日)」をまるで祝福(しゅくふく)しているかのような安心感(あんしんかん)が表れています。一方で下の俳句からは、「無原罪の御宿りの祝日(12月8日)」がついにやってきたんだ!という嬉しさが伝わってきます。

季語の世界はどうだったでしょうか。

自分が今まで持っていた俳句の知識が一気にひっくり返された感じがしました。季語をもっと深く知れば、毎日の生活、自然の変化、そして俳句を考えることの楽しさを感じられるようになるでしょう。

最後に、自分が落ち込んだ時に元気を与えてくれた大野 林火(おおのりんか)の俳句で締めようと思います。

大文字の火のあかあかと 吾(あれ)を生かす